ものづくり補助金の申請書その3は、その2で描いた将来の展望を数字で裏付けていきます。
その3は、5か年の事業計画をつくることがメインになります。
【ものづくり補助金】申請書その3の書き方
1.数字の算出根拠
それぞれの項目にかんする数字の算出根拠のつくり方を示します。
この記事で解説する数字のつくり方は、できるだけわかりやすく簡単に事業計画をつくくることをテーマにします。
そのため、実際の企業の事業計画とはズレていく可能性があります。
すでに精密な事業計画を策定している場合は、ぜひその事業計画に基づいた計画をつくってください。
また、それぞれの項目の数字は以下の順番で計算していくとスムーズです。
①売上高
②給与支給総額と伸び率
③人件費
④設備投資費
⑤減価償却費
⑥営業利益
⑦経常利益
⑧付加価値額と伸び率
それぞれの科目を詳しく解説していきます。
①売上高
売上高の内訳は、それまでおこなっていた既存事業と、ものづくり補助金でとりくむ新規事業とに分けます。
・既存事業の売上高
⇒基本的には、5年間横ばいで推移でよいでしょう。
審査員が詳細に知りたいのは、ものづくり補助金で取り組む新しい事業の売上高です。
それほど詳しく数字をつくりこむ必要はないと考えます。
たとえば、基準年の売上高が1億2,000万円の場合は、既存事業の売上高は5年間をとおして1億2,000万円となります。
基準年:1億2,000万円
1年後:1億2,000万円
2年後:1億2,000万円
3年後:1億2,000万円
・・・と5年間続きます。
・新規事業の売上高
⇒申請書その2で計算した、5か年の売上目標をあてます。
こちらの売上目標は製品・サービス1個あたりの単価から計算した精緻なものにしましょう。
新規事業は、5年間で少しづつ事業が成長していくため、売上高は毎年増えていくようにしましょう。
たとえば、新規事業にかかる売上高は以下のようになります。
基準年:0(まだ事業が始まっていないためゼロ)
1年後:300万円
2年後:600万円
3年後:800万円
・・・と5年間続きます。
この既存事業と新規事業の売上高を合計したものが、売上高になります。
よって、上記の例でいくと売上高は、
基準年:1億2,000万円(既存事業のみ)
1年後:1億2,300万円(既存事業+新規事業300万円)
2年後:1億2,600万円(既存事業+新規事業600万円)
3年後:1億2,800万円(既存事業+新規事業800万円)
・・・となっていきます。
②給与支給総額と伸び率
給与支給総額
給与支給総額は、ざっくりいうと従業員給与、労務費、役員報酬、賞与です。
福利厚生費、法定福利費、退職金などはふくみません。
その他、給与支給総額にはいる可能性があるものとしては、外注費や雑費があります。
給与支給総額=従業員給与+労務費+役員報酬+賞与+(外注費+雑費)
給与支給総額は、働く人が受け取る手取り(税引き前)というイメージです。
それぞれの企業で勘定科目への仕訳方法が違うので、迷う場合は補助金事務局へ確認をしましょう。
それぞれの科目について、もう少し詳しく見ていきます。
・従業員給与
⇒一般管理費にある従業員給料です。福利厚生費・法定福利費・退職金は含みません。
・労務費
⇒売上原価に含まれる労務費のうち福利厚生費・法定福利費・退職金をのぞく賃金です。
・役員報酬
⇒福利厚生費・法定福利費をのぞく役員報酬に該当するすべての部分です。
・賞与
⇒従業員・役員にかかわらず賞与に該当するすべての部分です。
・外注費・雑費
⇒短期や単発、アルバイト、出来高払いのお仕事など人件費とあつかえる費用です。
給与支給総額の伸び率の計算
給与支給総額の伸び率は、人を新たに雇う場合と雇わない場合で計算方法が異なります。
・人を雇わない場合
⇒売上高の増加率を給与支給総額に掛けます。
当年の給与支給総額=前年の給与支給総額×売上高増加率
たとえば、基準年の給与支給総額が3000万円で、毎年の売上高の増加率が2%であれば次のような計算式になります。
基準年:3,000万円
1年後:3,000万円×1.02%=3,060万円
2年後:3,060万円×1.02%=3,121万円
3年後:3,121万円×1.02%=3,184万円
・・・毎年1.02%を掛けて5か年分を計算していきます。
計算方法はシンプルです。
しかし、ここで注意が必要です。
公募要領に「給与支給総額が年率1.5%以上増加すること」という要件があります。
このため給与支給総額の伸び率は1.5%以上増加することが必須になります。
売上高の年率の伸びが1.5%以上ない場合は、売上目標を見直す必要があります。
そもそも、計画している事業は、ものづくり補助金の審査に通らない将来の展望が低い事業なのかもしれません。
・人を雇う場合
⇒新たに人を雇ったときの費用を給与支給額に加えていきます。
かつ、既存の従業員の給与を増加させていく方法です。
こちらの計算方法のほうが少し複雑になります。
5年以内に人の採用を検討している場合は、こちらの方法で計算してみましょう。
当年の給与支給総額=前年の給与支給総額×売上高増加率+当年の採用コスト
たとえば、新たに300万円のコストをかけて3年後に新たに一人を雇う場合は、次のようになります。
この場合も、年率1.5%以上増加の要件を意識して数字を策定します。
基準年:3,000万円
1年後:3,000万円×1.5%=3,045万円
2年後:3,091万円×1.5%=3,138万円
3年後:3,138万円×1.5%+300万円=3,485万円(3年目に1人採用)
4年後:3,485万円×1.5%=3,510万円
5年後:3,510万円×1.5%=3,563万円
・・・と3年目に採用コストを加えてた計算式になります。
ここでもひとつ注意が必要です。
給与支給総額の伸び率が、売上高の伸び率の範囲内に納まっているかを確認します。
たとえば、上記の計算例でいけば3年後に1人採用するため、この年の給与支給総額の伸び率は10%以上になります。
(3,485万円-3,138万円)÷3,138万円=0.11057…%
このため、後に計算する付加価値額の伸び率を計算したときに、要件目標が達成できない可能性があります。
この場合は、売上目標を上方修正するか、新規雇用はあきらめるしかないかもしれません。
これら2パターンの給与支給総額の計算方法は、あくまでもひとつの例です。
ほかにも、さまざまな計算方法があります。
大事なことは、公募要領の要件を満たしつつ自分が納得できる計画をつくっていくことです。
③人件費
人件費にかかわるすべての費用です。
これは、先ほど計算した給与支給総額とそれ以外の人件費の合計からできています。
それ以外の人件費とは、福利厚生費や法定福利費、退職金、退職給与引当金繰入などです。
人件費=給与支給総額+福利厚生費+法定福利費+退職金+退職金給与引当繰入
5か年の事業計画における人件費の計算は、給与支給総額の伸び率に合わせて増加させます。
退職金はイレギュラーに発生する場合がありますが、この費用は5年間に分散させてるという考え方をとります。
できるだけシンプルな計算になるように設計します。
よって、それ以外の人件費(福利厚生費+法定福利費+退職金+退職金給与引当繰入)の合計は、だいたい給与支給総額の20%くらいになるかと思います。
これにより、人件費は給与支給総額に0.2をかけた金額を加算していきます。
たとえば、次のような計算になります。
基準年:3,000万円+3000万円×0.2=3,600万円
1年後:3,000万円×1.5%=3,045万円
2年後:3,091万円×1.5%=3,138万円
3年後:3,138万円×1.5%+300万円=3,485万円(3年目に1人採用)
4年後:3,485万円×1.5%=3,510万円
5年後:3,510万円×1.5%=3,563万円
・・・と3年目の採用コストを追加した計算式になります。
④設備投資額
これは、ものづくり補助金を活用して導入する新たな設備の取得価格です。
たとえば、「3000万円のNC旋盤を導入して超精密精米機部品の生産プロセスの改善を行う」という事業であれば、3,000万円が設備投資額になります。
設備投資額=導入する設備の取得価格
⑤減価償却費
減価償却費の内訳も、それまでおこなっていた既存事業と、ものづくり補助金でとりくむ新規事業とに分けます。
既存事業の減価償却費
⇒基本的には、5年間横ばいで推移です。
小さな設備や金額の張る備品、工具など減価償却費になる資産の購入がなにかしら定期的に発生しているはずです。
これを既存事業で定期的に発生する減価償却費として5年間でならします。
年ごとに減価償却費に大きな変化がなければ前年度の数字を採用しても良いでしょう。
たとえば、前年度1年間の減価償却費が100万円の場合は、既存事業の減価償却費は5年間をとおして100万円となります。
既存事業の減価償却費
基準年:100万円
1年後:100万円
2年後:100万円
3年後:100万円
・・・と5年間続いていきます。
新規事業の減価償却費
⇒ものづくり補助金を活用して導入する新たな設備の減価償却費です。
ほとんどのケースは大型設備の導入になると思いますので、定率法で計算します。
定率法とは、設備の種類や用途によって決められた償却率を、こちらも決められた耐用年数にわたって設備の簿価に掛けていく計算方法です。
減価償却費 =未償却残高(購入年度は取得価額)×法償却率
ものづくり補助金の事業計画では、それほど精緻な計算を求められませんので、できるだけシンプルな計算方法にします。
たとえば、3,000万円のNC旋盤であれば次のような計算になります。
まずは、減価償却資産の耐用年数とそれに対応する償却率を調べましょう。
減価償却資産の耐用年数等に関する省令
今回は、法定耐用年数10年=償却率2%として計算します。
1年後:3,000万円(取得価格)×0.2=600万円
⇒減価償却費600万円 未償却残高2,400万円
2年後:2,400万円(未償却残高)×0.2=480万円
⇒減価償却費480万円 未償却残高1,920万円
3年後:1,920万円(未償却残高)×0.2=384万円
⇒減価償却費384万円 未償却残高1,536万円
・・・と5年間計算をしていきます。
※法定耐用年数は設備の用途によって違います。詳しくは、担当の税理士さんに聞いてみましょう。
また、減価償却費の計算は、ほんとうはもっと複雑です。こちも精密な事業計画を作成している方はそちらの数字をを採用しましょう。
⑥営業利益
営業利益は、売上高から売上原価と販売管理費を引いた数字です。
営業利益=売上高-売上原価-販売管理費
営業利益を計算するためには、さきに売上原価と販売管理費の数字の計算が必要になります。
まずは売上原価から解説します。
売上原価
⇒売上高に売上原価率をかけて計算すればよいでしょう。
売上原価=売上高×売上原価率
たとえば、売上原価率が40%だとすれば、次のよう計算します。
1年後:売上目標1億2,300万円×0.4=4,920万円
2年後:売上目標1億2,600万円×0.4=5,040万円
3年後:売上目標1億2,900万円×0.4=5,160万円
と5年分を計算していきます。
人件費や減価償却費が売上原価に算入されている場合など様々なケースを考慮すれば、計算がもっと複雑になっていきます。
たとえば、それまで熟練職人が手作業でおこなっていた生産プロセスを、最新の設備を導入して自動化し生産プロセスを削減する場合などは、職人の手がかからなくなるため人件費が浮きます。それに伴い、その事業にかかる売上原価は低減少します。
しかし、人件費を減少させると給与支給総額の増加要件と矛盾してしまいます。
そこで、熟練職人には、新たな技術開発や若手職人の育成をしてもらうことにして、人件費は下げないようにすていく。
などを考えていくと、売上高の増加と対応させて数字を作っていった方がシンプルでわかりやすくなります。
ものづくり補助金の事業計画書は、できるだけシンプルに計算することが正解です。
販管費(販売費及び一般管理費)
⇒基本的には、5年間横ばいで推移でよいでしょう。
なんだかんだと詳細に計算しても結局だいたい毎年同じくらいになります。
たとえば、減価償却費は初年度は大きいですがしだいに減っていきます。
一方で、人件費は給与の増額に合わせて徐々に増加していきます。
結局、減価償却費と人件費が相殺されて、毎年だいたい同じという現象になっていきます。
よって販売管理費は横ばいでよいでしょう。
毎年1億2,000万円くらいの売上高がある企業でしたら、4,000万円くらいでしょうか。
この売上原価と販売管理費の合計を売上高から引いた数字が営業利益になります。
もういちど、営業利益の計算式をおさらいします。
営業利益=売上高ー売上原価ー販売管理費
たとえば、次のようになります。
基準年:売上高1億2000万円ー売上原価4,800万円ー販管費4,000万円=3,200万円
1年後:売上高1億2,300万円-売上原価4,920万円-販管費4000万円=3,380万円
2年後:売上高1億2,600万円-売上原価5,040万円-販管費4000万円=3,560万円
3年後:売上高1億2,900万円ー売上原価5,160万円-販管費4000万円=3,740万円
・・・と5年聞と計算が続いていきます。
⑦経常利益
経常利益は、本業以外の収支をくわえた数字になります。
以下のような計算式です。
経常利益=営業利益+営業外利益ー営業外費用
これは単純に、営業外利益から営業外費用を引いた数字(営業外損益)を、営業利益に加算すればよいでしょう。
たとえば、営業外損益が毎年だいたい+200万円であれば、営業利益に200万円を加算した額が経常利益になります。
毎年の変動が大きい数字でなければ、
⇒5年間横ばいで推移でよいでしょう。
たとえば、経常利益は次のようになります。
基準年:営業利益3,200万円+営業外損益200万円=3,400万円
1年後:営業利益3,380万円+営業外損益200万円=3,580万円
2年後:営業利益3,560万円+営業外損益200万円=3,560万円
3年後:営業利益3,740万円+営業外損益200万円=3,940万円
・・・と5年分を計算していきます。
⑧付加価値額と伸び率
付加価値額
ものづくり補助金の事業計画でいう付加価値額は、営業利益、人件費、減価償却費です。
付加価値額=営業利益+人件費+減価償却費
この付加価値額の増加が、新規事業をおこなう場合では重要になります。
このため「付加価値額の伸び率」が補助金を支給する要件に定められています。
付加価値額の伸び率の計算
補助金を支給する要件に定められた「付加価値額の伸び率」は年率3%以上の増加です。
付加価値額の科目でチェックすべき重要事項は、年率3%以上伸びているかどうかです。
計算式は次のようになります。
(今年度の付加価値額-前年度の付加価値額)÷前年度の付加価値額
このとき、年率3%以上の伸び率が達成できていなければ、売上高目標の策定からやり直しです。
結局のところ、売上高をあるていど成長させることのできない事業は、ものづくり補助金が活用できる事業ではないということです。
つまり、利益を上げつつ、給料も上げていく、会社も人も成長していくという事業です。
事業自体の見直しを検討しましょう。
まとめ
申請書その3は、自社の成長ストーリーをひたすら数字で裏付けてきました。
ものづくり補助金の事業計画では、新規事業の成長に焦点があたります。
そのため、既存事業の数字などはおおまかで大丈夫です。
今回の記事でも、シンプルでわかりやすい計算にするため、数字の計算式はできるだけ単純にしました。
税理士の先生と共に毎年、精緻に事業計画書をつくっているという方は、その計画をもとに申請書を作成してください。
ものづくり補助金はでは、堂々と事務局に説明できる根拠があればよいと考えます。
どのような考え方と計算方法で事業計画をつくったかの根拠がしっかりと説明できれば、まったく問題ないと考えます。
もちろん合理的な説明ができる数字であれば、採択にも影響はありません。